銀の風

四章・人ならざる者の国
―51話・予定構築と川の町―



食事を済ませた一行は、まっすぐ泊まる部屋に戻ってきた。
「そういや、本読み終わったよなお前ら。」
「あ……ごめん、まだ途中。」
「……とりあえず今日中には読んどけよ。」
決まり悪そうなアルテマにはとりあえずそれだけで済ませて、リトラは地図を探し始める。
ルージュが食事に行く前にチェックしておいたので、
仲間をそう手間取らせるつもりはない。
時間をかければいいものではないし、大体長くなるのはリトラが好きではないからだ。
だから、手早く済ませようともうすでに彼は決めていた。
「おーい、明日の予定決めようぜ!」
「はーい!」
珍しいものを食べたせいか、やけにノリがいいフィアスが真っ先に反応した。
それに続くように、他のメンバーもリトラの周りに集まってくる。
「まず、こいつがこの国の地図だぜ。」
「うわ〜、おっきいんだね。」
「わ〜!」
広げた地図の大きさというよりも、
書かれている国土の大きさにアルテマやフィアスなどが嘆息する。
もちろん地図に色はないが、
軽く書き込まれている地形から、まだ行ったことがない場所の想像はできそうだ。
「きっとこの辺の森にチョコボとか、かわいいのがいっぱいいるんだろうな〜。」
「んー、妄想筋肉ちゃんは置いといてっと。
で、近場から回るわけー?」
妄想とはずいぶんな言いようではあるが、
ナハルティンはさっそく本題に興味を示してきた。
「遠くに目的地が決まってるわけじゃねーし、急に遠出もいやだろ?」
「えーっと、じゃあ近いところには何をしに行くんですか?」
とはいっても、おそらくは召帝や敵の情報収集だろうと、
ペリドはある程度見当をつけていた。
「まずは情報収集だ。
この国で今どんな噂が流れてるかとか、知りてーし。
後、ポーモルのこともあるだろ?」
「あ、そっか!仲間を探すんだよね。」
“そういえばそうだったわね。うーん、どこに住んでるのかな?”
「きっとすぐに見つかりますよ!」
少々不安そうなポーモルを、ジャスティスが励ました。
動物と魔物の国なのだから、希少種だって目白押し、かどうかは不明だが。
「あ、でもそのまま簡単に移住が出来るんですか?」
「移民の手続きなら、国内に多分出来る場所が何ヶ所かあるだろ。
なきゃこっちに戻ってくりゃいいし。」
広い国なのだから、行政機関の出張所くらいは人間の国同様あるだろう。
普段そんな施設の有無なんて気にしないが、
こういう事もたまにはある。
だが今回の場合、当てが出来たら調べていけばいいのだろう。
“それなら安心ね。んー……たくさん住んでるといいな。”
「ぼくも、いっぱいいるモーグリ見てみたいな!」
ポーモルの仲間が一杯いるファンシーな光景でも想像しているようで、
フィアスは目を輝かせている。
「おいおい、遊びに行くんじゃなくて、ポーモルが住める場所を探しに行くんだぞ?」
「行ったら少しくらい遊んでたってええやん。いけずやなー。」
子供はそもそも遊ぶのが仕事だと、リュフタが小言をもらす。
現にフィアスは4歳なので、間違っていないどころか正論である。
「そんじゃ、モーグリ情報頑張って探そうね〜、フィアスちゃん♪」
「うん!」
「おだて上手だな……。」
ナハルティンには子守の才能があるのではないかと、
ルージュは何となく感じた。
上級魔族は出生数が少ない種だけに、彼女に下の兄弟が存在するかは定かではないが。
「やっぱり探し物は、探検気分くらいでないとね〜。
やる気でないでしょー?」
「確かにやる気は大事ですね。……でも、どうして探検気分なんですか?」
ペリドがもっともな疑問をたずねると、ナハルティンはあっけらかんとこう答える。
「それは、アタシがたのしいから♪」
「まあ、なんでもいいけどよー……。」
「とにかく、ポーモルが最優先ってわけでいいの?」
話が横道にそれる前に、アルテマが念押しする。
「おう。その後は集まった情報によるけどな。
とにかく明日はこの町で情報集めるから、そのつもりでいろよ。」
「じゃあ明日はどこにも出かけないんだ〜。」
「地図の意味あったわけ?」
町中で済むんなら、わざわざ広げる必要なんてないではないかとアルテマが揶揄した。
導火線が短いリトラの眉間に、一瞬でしわが刻まれる。
「今から言うっつーの!!」
最後までちゃんと聞けよと、彼はイライラしながらそう制した。
げふんと大げさに咳払いをして、改めて続ける。
「で、全員で町だけうろついててもしょうがないだろ?
だから2グループに分けて、片方はこっちの方で特産品を買いに行くんだよ。」
「特産品といっても、役に立つものでしょう?
一体どんな物ですか?」
「こっちの山脈のふもとに町があるから、
そこに売ってるいいアクセサリーとかを買ってきてほしいんだよ。」
買い物はもう一通り済んでいるが、首都にはないものにもいい品物はたくさんある。
その中には、リトラがわざわざ買いに走りたくなるような冒険に役立つものもあるようだ。
アクセサリーなので、たぶん補助的な効果だろうが。
「具体的にはどんなものしょうか?」
「お前、行ってくる気なのか?」
「いえ、特にそういうつもりではありませんが。
しかし別にかまいませんし、行ってきましょうか?」
ジャスティスが積極的に名乗りを上げるのも珍しいが、
こういう流れならと言うことだろう。
頼まれて嫌な顔はしないという意思表示は、真面目で勤勉な天使らしさの表れだろうか。
「これから決める買い物班には、ウサギリスをつけとくぜ。
おれはこっちに残る。」
「じゃあ、あたしがジャスティスと一緒でいい?
クークーも連れてっていいんでしょ?」
「いいって言うか、絶対乗ってけ!」
徒歩で行ったら時間がかかって仕方が無い。
聞かれなくても、リトラはクークーに乗って向かってもらうつもりだった。
「じゃあ、昨日の今日で外だと疲れちゃいそうな子じゃなくて、
頑丈そうなのに行かせないとね〜♪」
「遠まわしにメンバーを指定しにかかってるだろ?」
からかう調子でルージュが言うと、
何の事とばかりにナハルティンは首を傾げてしらばっくれる。
なかなか息の合ったかけあいだ。
遠まわしに指定しにかかっている、という言葉もあながち間違いではなく、
この後は消去方式にすんなりと買出しメンバーが決まった。
「ナハルティンとアルテマ、それにルージュとジャスティスな。
じゃあリュフタとたのんだぜー。」
“ちょ、ちょっと心配なのは気のせい、かな?”
リトラはあっさりまとめてしまって、話自体も終わったが、
ポーモルは何だか浮かない顔だ。
「気のせいや無いと思うで……。」
ポーモルが気にしている通り、このメンバーは思い切りけんかになる組み合わせである。
不安を覚えないわけが無い。
だが、今さら変える選択肢は多分誰にも存在しないだろう。




―翌日―
リトラ達と別行動になったルージュ達は、リトラが指定した川沿いの町・ケプタに来ていた。
ここもラトアの町同様、独特の景観が広がっている。
水辺には草などで作った小屋状の建物や、
水の上に船や草の家を浮かべて店や家を構える者もあった。
きっと、これも住人の生活様式にあったものなのだろう。
とはいえ、川に沿うように建物が固まっていると言う点においては、人間の町と大して変わらない。
「どこにお店があるのか、ちょっと見当がつきにくいですね。」
「この国じゃ、建物の形はちょっとあてにならないからな。」
どこから手をつけようか考えこむジャスティスのそばで、ルージュが肩をすくめた。
実際、建物の様式で店の見当をつけるのは慣れないと難しい。
「それにしてもさー、あんたって実は色々なところにくわしいよね。」
「そうか?」
「うん。リトラは元々旅してたから分かるけど、あんたもそうなの?」
「……まぁな。」
今頃聞くかと言うような顔をしつつ、ルージュはあっさり肯定した。
冷めた対応はいつものことだ。
「そうやと思っとったけどな〜。ほとんど世界中行ってるんやない?」
「言われてみればそうだな。
人間の国に限定すると、エブラーナだけは行ったことがないけどな。」
「あ、そうなの?」
意外そうな顔でアルテマが聞き返す。
てっきり、全世界の国を制覇したものと思っていたらしい。
地界に土地勘が無いジャスティスやナハルティンは、ピンと来ないようで何も言わないが。
「あそこはつい最近まで、
どこともほとんど交流が無かったから、定期便がなかったんや。
せやからやと思うで。」
「へ〜、それは初耳だね。」
「あそこは変わった国やからな〜。」
忍者の国エブラーナは、リュフタが言うように一風変わった国だ。
今の王・エドワード=ジェラルダインが即位するまで、
積極的な開国を行っていなかったから、
まさに謎に包まれた神秘の国といって過言ではなかったのである。
ヴィボドーラも隣国のリアも、人間から見れば同じようなものだろうが。
「面白そうなところなら、アタシはいっぺん行ってみたいけどね〜。」
「あなたには、面白いかどうかと言う基準しかないんですか?」
ジャスティスが呆れかえっているが、
いつもの事なのでナハルティンは全く気にしない。
あからさまなため息をつかれても、その態度は変わらないようだ。
「いいじゃーん♪
あ〜あ、でもペリドちゃんいないと物足りなーい!」
「仕方ないだろ。諦めろ。」
「ペリドちゃんと川辺でデートしたかったんだけどな〜。」
「何で女同士でデートなわけ……?!」
アルテマがげんなりしてぼそっとつぶやく。
もちろん本気でレズと思ってはいないが、言葉選びには疑問を投げかけたいらしい。
「ペリドちゃん、おらんでよかったかも……。」
居たらきっと買い物そっちのけで、
ペリドを連れまわして散策に走っていたかもしれないと思うと、
リュフタもそんな感想が漏れようと言うものだ。
「ま、しょうがないから買い物終わったら付き合ってよね〜♪」
「俺が代わりか?」
「まあねー。」
しかしリュフタの考えをよそに、ナハルティンもある意味現実的というべきか、
居る人間で間に合わせようと言う魂胆らしい。
どちらにせよ、少し遊んでいくつもりのようだ。
「しょうがないお人やな〜。
まぁ、面白いところやし、ちょっと位はええけど。」
「オススメとかアンタ知ってるー?」
「う〜ん、食べるんなら、魚料理がおいしいで!
せっかくやし、後でみんなで行くとええな。」
「お魚って、どんなの?」
オススメも知っているくらいだからそれも知っているだろうと、アルテマが聞いてくる。
人間にもなじみがある種類が取れるのか、それともびっくりするような珍魚なのか、
実に興味をそそられるところではある。
「川魚やけど、そんなにおっかないのはおらんから大丈夫やで。」
「べ、別に変な顔の魚だからこわいとかは無いってば。」
「別に顔のことばっかりやないけど。」
「顔じゃなかったら何?!味?!」
味がおっかないとしたら、それはどんな魚だろうか。
残念ながらアルテマの想像力では想像がつかないし、想像したくもない。
「観光もしたいんなら、買い物をさっさと済ませるぞ。
どのみち大して時間も取れないけどな。」
「もー、ルージュってばお堅いな〜。
そんなんじゃそこのダサダサ天使とキャラ被っちゃうよー?」
ナハルティンはケラケラ笑いつつ、
目当ての商品を置いていそうな店を探しに歩き出したルージュの後を追いかけていく。
「ダサダサとは何ですか!失礼ですね!!」
「ダサいんだからしょうがないじゃなーい♪」
「あーもー……あんたも人をからかうのやめなさいよ!」
「や〜だよ〜ん。」
傍から見るとじゃれあいにしか見えない3人の口論を尻目に、
それでも無関心にルージュが歩いていく光景は何だか愉快だ。
「まったく、しょうがないお人達やで。
ほな、うちも置いてかんといてーな〜。」
しょうがないといいつつも、リュフタも顔が笑っている。
ナハルティンではないが、早く買い物を済ませて自分もちょっと遊んでいこうかなと思いながら、
先に行った4人の後を彼女も追いかけていった。



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ナハルティンがコギャル(死語疑惑?)っぽくなってますね。回を重ねるごとに。  でも彼女は台詞かいててとっても楽しいです。  というわけで買い物はしょって、次はいきなり彼らの寄り道から始まる予定です。  まあただの寄り道で終わったらつまらないんでしょうけど、  何かエピソード入れるかは後で考えますね(おい